おさえておきたい基礎知識 《香りを長続きさせるには? / 香水を安全に使うために》

 すれ違った人から“知っている香り”がしたら、つい振り向いてしまいませんか?嗅覚は他の感覚と異なり、直接本能に作用します。これは、匂いの情報が大脳辺縁系の扁桃体や海馬といった本能行動や感情・記憶を司る部分に直接伝わるため、とも言われています。そのため、人間の印象や記憶に強く作用するようです。
 また、香りには疲れた体と心を落ち着かせ、日常に活力を取り戻してくれる力があります。この3年間、新型コロナウイルス感染症の流行により、自分たちを表現する重要な手段としてメイクの代わりに香水を選ぶ消費者が増えているそうです。これは日本国内だけでなく、世界的な傾向にあります。
 そのためか、最近ドラッグストアや雑貨店の化粧品売り場で新しい香り製品・ブランドを見かけることが多くなりました。香り製品、いわゆる「フレグランス」製品には大きく基礎化粧品、香水、ディフューザーなど様々ありますが、多くの香り製品の中で代表的に思い浮かぶのが「香水」ではないでしょうか?香水は香料・アルコール・蒸留水で作られていて、中に含まれる香料の濃度によって、濃い順に「パルファム」「オードパルファム」「オードトワレ」「オーデコロン」に分けられ、香りの持続時間が異なります。

香水が売れるのはいつ?

 香り製品の使用時期は「状況」と「季節」に分けられます。湿っぽい湿度が続く夏の日には、香水を軽く“シュッシュッ”とかけるだけで気分転換ができたり涼感が得られたりすることから、夏の方が売れそうなイメージがありませんか?
 ところが実は寒い冬の方が香水の販売率がぐんと高くなるそうです。これは、温度と湿度が低いほど香りの持続時間が短くなることが関係しています。冬は気温が下がることで体温も下がり、湿度が低いことで肌が乾燥するため、手首や耳の後ろ、肌表面に噴射した香水の粒子が、長く留まらずに消えてしまうからです。
 香水の持続力は必ずしも温度と湿度に比例するわけではありませんが、乾燥肌の人の場合、香りが持続する時間が脂性肌の人よりも短いという研究結果もあります。

TIPS:香りを長く持続させるためには?

Kerword1 保湿

 前述の通り、肌の水分が多いほど、香りも長持ちします。ボディクリームやオイルを塗って肌をしっかり保湿することがポイントで、特に香水をつける手首や耳の後ろをしっとりさせると香りが長持ちします。ヘアパフュームを使う時は、髪が濡れている時にかけるのもお勧めです。


Kerword2 ライン買い

 お気に入りの香りを見つけたら、ラインナップを統一してみるのも一つの方法です。ボディクレンザー、ボディクリーム、ハンドクリーム、そしてヘアパフュームまで似た香り、あるいは、レイヤリングしたい香りで一緒に使うと、相乗効果で香りが長く続きます。


Kerword3 ラストノート

 香水はつけた瞬間から数時間後まで、つけてからの時間に応じて段階別に発香する特徴があり、段階に応じてあらわれる香りのことを順番に「トップノート」「ミドルノート」「ラストノート」といいます。これらの違いは揮発性であり、同じ香水であってもつけてからの時間によって香りが変化します。そのため、香水を買う際にはつけてすぐに決めるのではなく、1時間ほど後の香りを確かめてから購入した方がいいと言われています。
 主に夏に使われる爽やかなフローラルやシトラス系の香りが特に持続力が短い理由は、ラストノートが軽いためです。冬の香水によく使われるウッド、ムスクのように持続力が長持ちする重めのラストノートを選ぶといいでしょう。

<トップノート>
香水容器の開封や肌にかけた時、アルコールが飛んだ10分前後に現れる香りで、香りの第一印象と言えます。 主に揮発性の強いエッセンスを使用するのが特徴です。

<ミドルノート>

香水をつけた後、30~60分後の安定した状態の香りです。

<ラストノート>

香水をつけてから2~3時間経って、香りがすべて飛んでいくまでの香り。したがって薄い香り、香りの基本性格を決定する香りと言えます。

香水の安全性

 香水とは、動植物から抽出した天然香料や化学的に作られた合成香料を適切に組み合わせた後、アルコールに溶解したもののことを言います。香水には気分を上げたり、リラックスさせてくれたり、自分の魅力を引き出してくれたりと、様々な楽しみ方がある一方、数百種類の化合物が入っており、多くの成分を含有しているため、誤った使用方法によって肌トラブルを誘発する恐れがあります。 香水が引き起こす恐れのある疾患や、使用時の注意点などは以下の通りです。


①紫外線
 基本的に香水は開封後、紫外線を避けて涼しいところに保管しなければなりません。容器もプラスチックではなく、ガラス瓶に入れた方が良いとされています。
 また、含有物質によっては、つけた身体部位が紫外線にそのままさらされてしまうと光毒性皮膚炎を誘発する恐れがあります。グレープフルーツ油などの柑橋系の精油が代表的です。
 光毒性皮膚炎は紫外線が香水の成分と結合して発生し、色素沈着やかゆみなどを誘発する疾患です。香水は耳の後ろや手首など、紫外線に直接あたりにくい部位につけることが一般的ですが、春から夏までの野外活動や皮膚の露出が多くなる時期には紫外線にあたる量も増えるため、光毒性皮膚炎が生じる可能性が高くなります。使用時には注意が必要です。

②使用期限
 香水の種類ごとに差はありますが、平均して1~3年程度が使用期限です。古い香水は色が変わったり、香りが飛んでアルコールの香りだけが残るので、少しでも異変があれば使用を中止してください。捨てるのがもったいないのであれば、芳香剤として使うのも一案です。

③使用方法
 肌が敏感な方などは肌に直接香水をつけずに、袖の内側や上着の内側、ネクタイの後ろなどにつけましょう。 特にアトピーや乾癬の方が香水を使用する際には一際の注意が必要です。 アトピーや乾癬症状がある場合、皮膚の免疫体系のバランスが弱くなっており、香水に対して過敏な反応を見せる可能性があるからです。また、香水が肌に触れると免疫反応で炎症を誘発しやすいだけでなく、肌に残ることで長時間の刺激となり、肌に負担を与える恐れがあると言われています。



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